宮様一家はどうしたか。なぜか天皇家のように畳の上にジュータンを敷くやり方はしなかった。天皇家には、見えないところでもいいから畳を残しておきたいという伝統意識が無意識のうちに働いていたかもしれないが、宮家は何の躊躇もなく純洋風の生活に突入する。岩崎家のような大富豪はどうしたかというと、まず家を和館と洋館に分けてくっつけて作り、洋館ではスリッパを履き、和館では何も履かない、という使い分け。洋館では外国人と一緒の時には靴を履くが、それ以外の時はスリッパで過ごすから基本的には土足で家に上がることはない。
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問題は、明治の半ばから大正にかけての第三ラウンド。このラウンドの主役は皇族、富豪じゃなくて普通の人々。正確にはその上層のリーダー的な市民層。このラウンドいかんで日本の土足問題の行く末は決まる。会社の部課長さんや学校の先生といった面々は、天皇家、宮家、富豪のどのタイプを選んだか。富豪タイプを選んだ。和風の伝統の中に洋風要素(ジュータン、イス、テーブル、ベッド)を持ち込むけれど、土足で家に上がることだけはしない。靴の代わりにスリッパですます。かくして、日本近代における土足問題は決着がついた。まず、会社やビルや店や役所は上足でゆく。しかし、住まいについてはイス、テーブル、ベッド、ジュータンはいいけど、土足だけは許さない。日本の住まいの玄関には、見えないけれど、〈不許土足入門〉と刻まれているのである。